相談申し込みはこちら

BLOG

ブログ

様々な角度から多重債務問題に切り込む~多重債務相談に関する全国協議会から~連載①手続編

本年1月,東京弁護士会館にて「多重債務相談に関する全国協議会」が開催され,私は,福岡県弁護士会の生存権擁護・支援対策本部の委員としての立場から出席しました。
全国の弁護士会からも多数の出席があり,多重債務相談に関連する7つの協議事項について報告・意見交換が行われました。
本ブログでは,協議会の中から市民の皆さんにも関連ある一部をご紹介します。
今回は、破産または行政手続上の諸課題についてです。

同時廃止手続と破産管財手続の振り分け基準
破産申立後は,手続上,同時廃止か,管財手続(異時廃止)が採られます。
協議会では,同時廃止手続が採られるのか,破産管財手続が採られるのか,その全国的な振り分け基準について報告されました。
従前は,各地ごとに振り分け基準が異なっていましたが,全国の裁判所で均一な司法サービスが提供されるべきとの要請から振り分け基準の統一化が進められてきました。
現在はほとんど全ての裁判所において振り分け基準が統一されていますが,その運用については各地で多少の差異はあるようです。例えば,統一された基準によれば,申立て直前の財産の現金化(定期預金の解約,生命保険の解約等)はその金額が過度に高額でなければ考慮せず現金として取り扱うこととされていますが,どの程度の金額をもって「過度」となるのかについては各地で温度差があるようです。振り分け基準の統一化が図られる中,申立代理人は,各地での基準の運用の仕方に配慮しながら同時廃止手続が採られるように申立て行っている状況です。
さらに,近時の裁判手続のIT化の流れの中で,破産手続開始申立手続においてもオンライン申立ての方法に適しているのではないかとの意見も出されていました。これが実現すれば申立書式を含めた運用の完全統一が図られる可能性も十分にあるのではないでしょうか。

生活保護法63条返還債権の財団債権・非免責債権化
2018年生活保護法改正に関し,いわゆる63条返還金を国税徴収の例による債権とし(改正法77条の2),保護費との相殺を可能にした(改正法78条の2)ことについて,以下の各場面に応じて被保護者の代理人としてどのように対応すべきか報告されました。
例えば,保護の実施機関の責めに帰すべき事由によって保護金品を交付すべきでないにもかかわらず,その交付が行われたという過誤払いがあった場合(生活保護法施行規則22条の3)には,被保護者が返還しなければならないことには変わりはありませんが,被保護者の代理人としては,保護の実施機関の職員に対する損害賠償請求権の成否やこれを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否について検討しておく必要があります(東京地裁平成29年2月1日判決参照)。
また,63条返還債権を根拠に被保護者の財産が差し押さえられることがある場合には,法律上,保護受給権だけでなく,既に給与を受けた保護金品も差押えが禁止されています(生活保護法58条)ので,被保護者の代理人としては,その差押えの違法を主張する必要があります。
また,保護の実施機関からの徴収(滞納処分の執行)によって被保護者の生活を著しく困窮させるおそれがある場合には,滞納処分の執行を停止することができるとされています(国税徴収法153条1項2号)。そして,国税徴収法の基本通達によると,「生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」とは,滞納者の財産につき滞納処分の執行等をすることにより、滞納者が生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態(国税徴収法76条1項4号に規定する金額で営まれる生活の程度)になるおそれのある場合をいうとされていますので,被保護者の代理人としては,その滞納処分の停止を求めることを検討する必要があります。なお,同じく国税徴収法の基本通達によると,滞納処分の停止がなされた場合,その処分が取り消されないで,滞納処分の停止をした日の翌日から起算して3年を経過したときは,その滞納処分の停止をした国税を納付する義務は当然に消滅する(国税徴収法第153条第4項)とされていることにも留意しておく必要があります。
また,保護の実施機関によって保護費との相殺が行われることがありますが,それは,一定の場合に制限されていますので,被保護者の代理人としては,そのような相殺が法律上許されるものであるのかどうか検討する必要があります。具体的には,生活保護利用者からの徴収金の納入に充てる旨の申し出があった場合や,生活保護利用者の生活の維持に支障がないと認められる場合でなければ,保護費との相殺は認められないことに留意しなければなりません。
このように,63条返還債権に関連する各場面に応じて,被保護者の代理人として採るべき手段について報告がなされ,今後,具体的な代理人活動においてイメージを持つことができました。
 (次回へつづく)

 弁護士 北中 茂(宗像オフィス)

Comments are closed.