私は拒んだのに… 裁判所が“口止め” 残業代未払いめぐるトラブルで労働審判官が「口外禁止条項」付ける 裁判へ移行し「口外禁止」取り除く形で和解(https://news.yahoo.co.jp/articles/45e465fe97b4756ab320e42b3a0a07c281db6ac4)
労働審判は、労働者・使用者間の労働関係の紛争を解決する裁判手続きの一つであり、訴訟とは異なり、原則審判期日は3回までとされ、裁判官から審判が下されることになっていますので、早期に紛争解決を求める際に利用されます。
もっとも、実際の労働審判ではすべて審判が出されるわけではなく、調停成立という和解の形で終了することもあります。最高裁判所による令和5年の司法統計では、申し立てられた労働審判の68.8%が調停成立により終了しています。
このニュースの案件は調停成立ではなく裁判官が審判を出す際に、その主文として口外禁止条項(正当な理由がある場合を除いては、紛争の経緯や解決の内容について第三者に口外しないことを約束する条項)を入れたようですが、調停成立にあたっても主に使用者側から口外禁止条項を入れてほしいと希望が出ることがしばしばあります。また、審判という手続きに関わらず、また労働事件に関わらず、和解・調停成立にあたっては、しばしば一方当事者が口外禁止条項を希望する場合があります。
このニュースを読んだときに私が最初に感じたのは、裁判所が案件の「処理」にばかりを目的にし、紛争解決を軽視してしまっていたのではないかということです。詳しくは言えませんが、私も以前に労働審判の際、裁判所から、紛争の根本的な解決には到底なりえない調停案を示されたことがあり、強く拒否した経験があります。
労働審判や離婚・遺産分割調停などは代理人弁護士を就けずにされている方も一定数いらっしゃいますが、裁判所や相手方の弁護士から「一般的には○○だ」と言われてしまうと、専門家の助言なしに反論することはなかなか難しいと思います。
このニュースの案件では、制度上、民事訴訟への移行が可能だったため、口外禁止条項を外すことができましたが、調停・和解成立後にはそれを覆すことができなくなりますので、事前に専門家に相談をされることをおすすめします。
弁護士 坂口裕亮