梅雨の時期で、雨が降る日が多くなり、外出の際に傘を持ち歩く機会も多くなっているこの頃ですが、屋内で傘を持ち歩くときに横持ちをしないよう注意が呼びかけられています。
傘の横持ちとは、傘を折りたたんで持ち歩く際に、傘の柄(え)や傘本体の中心部分を握って、傘を地面と平行にして持つことを言います。
歩行するときに腕を振った際、横持ちしている傘の先端が、後方を歩行する他人に突き刺さることによって、他人にケガを負わせる危険性があります。特に、駅など人が込み入った場所や、階段を上り下りするときなど人と人との間隔が狭くなっている場面で、横持ちした傘の先端が他人に突き刺さるという事故が現実に発生しています。
傘の先端は固く尖っているので、それが突き刺さることで他人にケガを負わせた場合、民事責任や刑事責任を問われる可能性があります。すなわち、民事責任としては、ケガを負わせたことにより治療費や通院交通費、慰謝料などの損害が発生した場合、傘を横持ちしてケガを負わせた当事者は不法行為に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。傘の先端が突き刺さった部位によっては重大な後遺障害を残すこともあり、その場合後遺障害に関する慰謝料や逸失利益(後遺障害によって労働能力が減少して将来得られる収入が減少してしまうことに対する賠償)についても賠償しなければならないこともあり、賠償金額が多額にのぼる可能性もあります。
また、刑事責任としては、過失傷害罪に問われる可能性があります。過失傷害罪は、注意義務があったのにその義務を怠った結果、他人を傷害した場合に成立する犯罪です。傘の横持ちの場合に則して言うと、先端が尖っている傘を屋内で持ち歩く際には、その先端が他人に突き刺さらないようにして持つべき注意義務があったのに、他人に傘の先端が突き刺さる可能性の高い横持ちの方法で傘を持ったために、他人にケガを負わせたことで、過失傷害罪が成立する可能性があります。過失傷害罪の法定刑は、30万円以下の罰金又は科料と定められ、他の刑法犯に比べると量刑は軽いものですが、犯罪であることには変わりありません。
このように、傘の横持ちは、民事責任問題・刑事責任問題に発展しかねない危険な行為ですので、傘を持ち歩く際は地面と垂直にして持つようにご注意ください。
弁護士 北中 茂(宗像オフィス)