新年明けましておめでとうございます。
新型コロナウイルスの猛威にさらされて2度目の元旦を迎えました。右往左往の人間たちをよそ目に、空は青く、空気は澄みきり、木々や生き物たちも、静かに新たな一年を迎えました。私たちもかくありたいと願います。
2021年12月6日、「国境で立ちすくむ人がいれば人として扱い、助けるために各国と交渉する。それは私の信念だ」と100万人を超える難民を受け入れて、人道主義を貫いた一人の政治家が16年に及ぶ任務を終えました。
福島第一原発事故後、世界に先駆けて原発との決別を宣言したドイツでは、事故直後の2011年5月、「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」が一つの報告書を取りまとめています。
17名の科学技術者、宗教者、社会学者、政治学者、経済学者などからなる倫理委員会の報告書は、冒頭に「核エネルギーの利用、その停止及び様々な形での選択エネルギー生産による代替エネルギーに関する決定は、社会の価値決定に根拠を持ち、それは技術的及び経済的な観点に優先される」「将来のエネルギー供給及び核エネルギー倫理的評価に必要な鍵となる概念は、資源や自然環境を保ちながらの持続性(Sustainability:サステナビリティ)と責任である」と謳い、末尾では「脱原発は、ドイツにおいて原子力発電所により起こるリスクを、今後排除する為にも、必要であり、かつ薦めなければならない。この脱原発は可能である」と結論しました。
それまでの原発延命政策を転換し脱原発を決断したその政治家は、政財界からの反発に対して「私も夫も科学者である」と答え、「倫理」に基づく政治を貫きました。
そこから10年、ドイツは着実に原発の閉鎖を進め、本年(2022年)中に脱原発を遂げます。
政治と倫理・道徳とが二律背反の様相を呈し、ドイツとは対照的な10年を歩んできた我が国の姿を省みつつ、「民主主義の最後の守護者」と評されたその人、アンゲラ・メルケル氏が退任式で見せた笑顔に励まされて、新たな一年を踏み出したいと思います。
2022年が皆様にとって幸多い一年になることを祈念いたします。
2022年元旦
弁護士法人奔流 代表社員弁護士 池永 修